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東京地方裁判所 平成3年(ワ)17073号 判決 1993年5月25日

主文

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

一、請求

被告は、各原告らに対し、藤ケ谷カントリークラブの別紙会員権目録記載の個人平日会員権につき、各原告らへの名義書換手続をそれぞれせよ。

二、事案の概要

1. 本件は、被告か経営する千葉県東葛飾郡沼南町所在の藤ケ谷カントリークラブ(以下「本件クラブ」という。)の別紙会員権目録記載の各個人平日会員権(以下「本件各会員権」という。)を原告らが平成三年二月から一〇月までの間に同目録記載の各旧会員からそれぞれ買い受けたとして、原告らから被告に対して本件各会員権の名義書換を求めているものである。

2. 争点

被告は、本件各会員権はいずれも入会契約時から会員の異動による名義書換を予定していないもの、すなわち、譲渡性が否定されていたものであると主張して、原告らからの名義書換請求を争っている。

三、証拠<略>

四、争点に対する判断

1. 本件各会員権についての各入会契約時(昭和四四年九月ころから昭和四五年一〇月ころまで)の状況など

本件各会員権は、別紙会員権目録記載の各旧会員(以下「本件各旧会員」という。)が同目録記載の各日に被告に対し入会保証金四〇万円を支払って締結した入会契約に基づく本件クラブ施設の平日利用権で(争いがない。)、昭和四四、四五年当時の会員募集要項には「正会員は、株式会社藤ケ谷カントリー倶楽部の株式を有することになり、この株式の譲渡は自由です。なお、平日会員、家族会員の入会保証金は据置期間が全くありません。従って退会の際は入会保証金をお返しいたします。」との記載があり、昭和四四、四五年当時の本件クラブの規約及び規約施行細則には、会員の種類として名誉会員、特別会員、正会員、平日会員、家族会員の五種が定められ、右のうち正会員は被告会社の株主であることが前提資格とされていたが、平日会員については被告会社の株主であることは要件となっておらず、正会員については、「正会員名義書換料」の記載があるが、平日会員には「名義書換」といった文言の記載はなく(ただ法人会員については、現実に施設を利用する登録会員の登録名変更に定めがなされていた。)、退会の際に入会保証金の返還を受けると記載されていた(証人新倉、甲1)。また、本件各旧会員が入会保証金を支払った際に被告から受領した証券(甲2の1ないし6)には、平日会員入会保証金を預かった旨の文言及び退会時に右証券と引き換えに入会金を返還する旨の文言の記載がなされているだけで、譲渡によって施設利用者が変更されることを想定した手続文言その他の記載は同証券の表裏のどこにも見当たらない。

2. 本件各会員権についての各入会契約後の事情など

被告に対しては平日会員からその会員権の譲渡可能性及び相続可能性について問い合わせがなされたことが一度ならずあったが、いずれも当該会員一代限りの資格であって、譲渡及び相続はできない旨回答し、実際に昭和四四年以前からも含めてこれまでに平日会員権の譲渡または相続を承認した例はない(証人新倉)。本件クラブは、昭和五〇年九月二九日開催の会員総会において、それまでの規約一六条の「平日会員、家族会員の入会保証金は退会の際之を返還する。」との文言を「平日会員および家族会員の権利は譲渡できないものとし、退会の際は入会保証金を返還する。」と変更する旨の決議をしたが、その際の規約変更趣旨説明は「平日会員、家族会員の権利は当初より譲渡不能でありますが、…これを規約に明記しようとするものであります。」というものであった(乙3、4)。なお、本件クラブの平日会員の間から、平日会員権の譲渡を認めるべきであるとの意思表明が明確になされだしたのは平成元年一月ころからである(証人新倉、乙5ないし9)。

3. ところで、本件各会員権は、本件クラブにおける平日の施設利用権及び退会時の入会保証金返還請求権によって構成される権利であるが、前記認定の各事実によると、本件クラブの規約は、少なくとも平日会員の施設利用権については、その主体を変更することを全く想定しておらず、したがって、施設利用権者の変更のためのいわゆる名義書換請求及びそれに対する承認手続に関する定めも存しないし、そのような手続がなされた例は平日会員募集開始後これまでの二〇年余りの間に一度もない。そして、本件各旧会員は、それぞれ入会契約時に本件クラブの規則等を承認した上で入会する旨の入会申込書に署名・押印して入会の申し込みをし(証人村上、証人竹内、乙一三の一ないし六)、以後平成元年までは、昭和五〇年九月の前記規約変更の際にも異議を出すことなく本件クラブの施設利用を継続していた。こうした事実を総合すると、被告と本件各旧会員との間では、平日会員権の譲渡性は認められない旨(あるいは、少なくとも平日会員については施設利用権の譲渡及びそのための名義書換は行わない旨)の合意がそれぞれの入会契約時になされていたものと推認することができ、この推認は、本件各旧会員の入会契約時における規約及び施行規則の文面に本件クラブの平日会員権の譲渡性を端的に否定する文言が記載されていなかったという事実だけで覆るものではない。

会員権目録<略>

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